わが国の海運・水産業は、太平洋戦争において軍人の損耗率 ( 戦争に参加した員数と戦死者の比率)を上回る6万余人の戦没船員と、膨大な船舶の喪失による日本商船隊の壊滅という大きな犠牲を払った。

船団を組んで航行する輸送船
1 |
戦没船員の調査は、昭和46年 「戦没船員の碑」 の建立に先立ち、当時の厚生省援護局調査課および業務第二課の原簿に基づいて行われ、その後、船会社や遺族等などへの照合で補完され、平成28年3月現在、戦没船員は60,643人となっている。 |
2 |
戦没船員を商船・漁船・機帆船別に見ることは、原簿が区分されていないので出来ない。しかし、商船 (100トン以上の鋼船) については、戦後(財)海上労働協会による昭和37年の調査で30,592人であることが分っているので、戦没船員は商船と漁船・機帆船でほぼ二分されていると見ることも出来る。
下表は、各年度の戦没船員数である。
後でふれるが、輸送船の年次別喪失隻数と船員の年次別戦死者数の推移は正に一致しており、戦争の激化とともに、いかに輸送船団が敵の攻撃にさらされていったかがよく分る。 |
戦没船員の年次別戦死者数
年次 |
戦死者数 |
昭和16年12月7日以前 |
1,383人 |
昭和16年12月8日〜12月31日 |
72人 |
昭和17年 |
2,830人 |
昭和18年 |
7,644人 |
昭和19年 |
25,801人 |
昭和20年8月15日迄 |
21,677人 |
昭和20年8月16日以降 |
1,172人 |
合計 |
60,579人 |
注) 昭和16年12月7日以前の戦死者は、日中戦争による戦死者と思われる。また、昭和20年8月16日以降の戦死者は、敷設された機雷に触雷して戦死した方々と思われる。さらに、奉安されている戦没船員60,643人と合計の60,579人との差64人は、没年月日が不明の方々である。 |
3 |
戦没船員の悲惨な実態を伝えるものに、軍人を上回る犠牲といたいけな年少船員の多いことがあげられている。
軍人の損耗率は、陸軍20%、海軍16%となっているが、船員は43%(漁船、機帆船の正確な数字が把握困難なので推計)にもおよんでいる。
また、戦没船員の年齢別分布は、下表の通りとなっている。
この背景には、戦時特例によって海員養成所、商船学校、高等商船学校などの卒業年限が大幅に短縮されて乗船したこと、船舶の急激な喪失による船員の犠牲をカバーするため大量の船員養成が行われたこと、などによるものである。 |
戦没船員の年齢別分布
年 齢 |
人数(推計を含む) |
比率 |
14 |
988 |
1.63 |
15 |
2,868 |
4.73 |
16 |
3,184 |
5.25 |
17 |
3,967 |
6.54 |
18 |
4,208 |
6.94 |
19 |
3,845 |
6.34 |
20未満小計 |
19,060 |
31.43 |
20以上30未満 |
16,610 |
27.39 |
30以上40未満 |
13,196 |
21.76 |
40以上50未満 |
8,539 |
14.08 |
50以上 |
3,238 |
5.34 |
合 計 |
60,643 |
100% |
(注)この表は、戦没船員名簿のデータベースより算出したものである。名簿には、一部生年月日が不明な人がいるが、この人達については全体の年齢分布にスライドしていると推計し、算出した。 |
4 |
戦没船員60,643人の都道府県別・所属別詳細は別表の通りである。
所属別のABCは、以下のような内容である。
A 陸軍徴用船
B 海軍徴用船
C 船舶運営会――この中には、陸軍・海軍の配当船や所属不明の船舶も含めている。 |
|
本籍地 |
A |
B |
C |
総計 |
北海道 |
655 |
570 |
938 |
2163 |
青森県 |
238 |
226 |
151 |
615 |
岩手県 |
318 |
262 |
179 |
759 |
宮城県 |
383 |
660 |
250 |
1293 |
秋田県 |
96 |
138 |
114 |
348 |
山形県 |
141 |
65 |
144 |
350 |
福島県 |
320 |
278 |
127 |
725 |
茨城県 |
315 |
306 |
212 |
833 |
栃木県 |
111 |
144 |
136 |
391 |
群馬県 |
96 |
124 |
106 |
326 |
埼玉県 |
113 |
126 |
155 |
394 |
千葉県 |
506 |
311 |
240 |
1057 |
東京都 |
487 |
499 |
555 |
1541 |
神奈川県 |
342 |
529 |
422 |
1293 |
新潟県 |
593 |
474 |
579 |
1646 |
富山県 |
233 |
180 |
217 |
630 |
石川県 |
671 |
443 |
502 |
1616 |
福井県 |
377 |
189 |
247 |
813 |
山梨県 |
54 |
55 |
62 |
171 |
長野県 |
172 |
114 |
171 |
457 |
岐阜県 |
181 |
94 |
141 |
416 |
静岡県 |
671 |
735 |
329 |
1735 |
愛知県 |
538 |
216 |
292 |
1046 |
三重県 |
623 |
510 |
300 |
1433 |
滋賀県 |
125 |
60 |
91 |
276 |
京都府 |
341 |
140 |
234 |
715 |
大阪府 |
646 |
297 |
519 |
1462 |
兵庫県 |
1307 |
717 |
953 |
2977 |
奈良県 |
90 |
48 |
59 |
197 |
和歌山県 |
591 |
477 |
172 |
1240 |
鳥取県 |
181 |
55 |
83 |
319 |
島根県 |
671 |
394 |
287 |
1352 |
岡山県 |
760 |
250 |
306 |
1316 |
広島県 |
2078 |
584 |
766 |
3428 |
山口県 |
1199 |
552 |
519 |
2270 |
徳島県 |
697 |
389 |
232 |
1318 |
香川県 |
764 |
297 |
300 |
1361 |
愛媛県 |
1392 |
497 |
423 |
2312 |
高知県 |
752 |
499 |
216 |
1467 |
福岡県 |
651 |
439 |
565 |
1655 |
佐賀県 |
265 |
215 |
293 |
773 |
長崎県 |
1199 |
863 |
699 |
2761 |
熊本県 |
483 |
298 |
330 |
1111 |
大分県 |
523 |
274 |
180 |
977 |
宮崎県 |
309 |
216 |
138 |
663 |
鹿児島県 |
1744 |
1173 |
996 |
3913 |
沖縄県 |
229 |
303 |
198 |
730 |
樺太 |
18 |
22 |
4 |
44 |
小計 |
25249 |
16307 |
15132 |
56688 |
朝鮮 |
1110 |
929 |
569 |
2608 |
台湾 |
417 |
204 |
417 |
1038 |
小計 |
1527 |
1133 |
986 |
3646 |
不明 |
137 |
54 |
107 |
298 |
外国 |
3 |
2 |
6 |
11 |
小計 |
140 |
56 |
113 |
309 |
合計 |
26916 |
17496 |
16231 |
60643 |
|
5 |
太平洋戦争におけるわが国船舶の被害は、商船については戦後の調査でほぼ全容が明らかになっているが、漁船や機帆船については調査が困難で推測の部分が多い。 |
6 |
商船の被害は、資料によって若干の差はあるが、約2,500隻、800万総トンとなっている。
開戦前、わが国は約600万総トンの船舶を保有し、世界第3位であったが、戦争中約400万総トンを建造した。
被害船舶は、この総数に対するものである。しかし、被害によって喪失した船舶は、わが国が世界に誇る優秀な船舶が総てであり、戦争中に建造された船舶は、「戦時標準型船」と言って粗悪なもので、これが敗戦によっていくらか残された程度であったことから、わが国商船隊は太平洋を墓場に壊滅したと言える。 |
7 |
漁船および機帆船の被害は、厚生省の戦没船員原簿による推測が中心となる。この原簿にある船舶名には、所属が記載されていないが、船舶の総数は約7,200に達している。
したがって、この数字から前記商船の隻数を差し引けば、4,000隻を上回る漁船や機帆船が太平洋戦争によって喪失したと言える。この数字は、戦後、経済安定本部がまとめた 「船舶被害総合報告書」 ともほぼ一致する。 |
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