〇 日本商船隊壊滅の背景と要因
 予想をはるかに上回り、わが国の商船を中心とする輸送船団が崩壊していった背景と要因には、米国とわが国(海軍)の海上輸送の護衛に対する、180度異なる考えと対応があったと言われている。
 米国は、勝利への道が日本の海上輸送路を破壊することだと考え、開戦前からそのための対策を十分に整えていた。
 これに対しわが国海軍は、日露戦争以来、伝統としてきた大艦巨砲主義の艦隊決戦を作戦の中心にし、輸送船の護衛には殆ど目を向けていなかった。

米国は開戦に備え、自国輸送船団護衛のために巡洋艦、駆逐艦、空母などからなる約200隻を超える艦船を準備していた。
また、日本商船攻撃のための潜水艦も備え、真珠湾奇襲攻撃の3時間後には、51隻の潜水艦を西太平洋全域に配備し、民間商船も総べて攻撃の対象とする 「無制限潜水艦作戦」 の実施を大統領は命令している。
なお、これ等潜水艦はその後200隻に増え、西南太平洋全域で思うままにわが国商船や漁船、機帆船を攻撃し撃沈している。
これに対してわが国海軍は、開戦時輸送船を護衛する海防艦は僅か4隻という、無きに等しい実態であった。
このような中で、陸海軍の作戦行動に参加した徴用船は海軍の艦船によって護衛されたが、資源の輸送に当たった輸送船は護衛のない単独輸送を強いられた。
その後、輸送は船団方式を取り入れ、護衛船を付けることにしたが、護衛船は緊急建造の海防艦か水雷艇程度で、これは米国潜水艦の敵ではなかった。
米国潜水艦の攻撃戦法に 「狼群作戦」 と言うのがある。
この戦法は、数隻の潜水艦が同時に船団を襲撃するというものである。敵は先ず護衛艦を標的にし、これを撃沈し船団の行動が乱れて輸送船がバラバラになった後、敵潜は次々に無防備の輸送船を攻撃し撃沈する、という戦法である。
ミッドウェー海戦の敗北で、制海・制空権を敵に奪われ、航空機から敵潜を発見し攻撃するという 「電波兵器」 の開発が遅れた日本軍は、敵潜を攻撃撃沈することが殆どできず、無残にもわが国輸送船団は敵潜の思うがままに次々と撃沈されていった。
また、戦争の半ばからは、空母や奪還された南方基地から発進する敵航空機によって、商船はもとより機帆船や漁船が攻撃され、撃沈されていった。